推薦図書紹介
本著は、地震、山火事などの頻度と規模、戦争の頻度と死者数、株価変動の大きさについて、実際のデータから統計分析する。著者はこれら全て、統計物理的な「べき乗」の法則に従うと指摘する。本著の仮説に従えば、長らく火事が起こらなかった山野からは大規模な山火事が起き、長らく平和を享受した世界の次に起こる戦争は、より多くの死者を生み出す。
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科学者でない人々は、バタフライ効果を、カオス理論という概念を端的に表したものととらえているようだ。しかしバタフライ効果としてよく知られている話は、残念ながら少々誤解を招くものである。風船の中の分子の運動がカオス的だったとしても、中で特に変わったことは起こらないはずだ。あなたは、中で嵐が巻き起こっている風船を見たことがあるだろうか?風船の中の蝶がいくら羽ばたいても、それが影響を及ぼすことはない。カオスだけでは、なぜ蝶が嵐を起こしうるのかを説明できないのだ。確かにカオスは、なぜ小さな原因が未来の詳細(各分子の位置)を変化させるのかを説明することはできる。しかし、なぜ小さな原因が最終的に大激変につながりうるのかを説明するには、何か別のものが必要なのだ。カオスは、単純な予測不可能性についてなら説明できるが、『激変性』について説明することはできない。
- 81P
鈍感な科学者だったら、これは単に物珍しいことにすぎないと考え、別の研究に移ってしまったかもしれない。しかしマンデルブローはそうではなかった。彼は、金や小麦といった別の商品の価格変動も調べ、そこに同じパターンを見出した。さらには、株式や債券の価格の騰落にも同じことを発見した。グラフのいかなる小部分も、全体の大まかなコピーであるかのようだった。一九七〇年代初め、マンデルブローは注目する先を変えた。市場の喧噪を離れ、自然界、特に網状に枝分かれする大小の川について、詳しく調べはじめた。金融とはかけはなれたことについて考えるのは難しかったが、ここでもマンデルブローは同じパターンに出くわした。たとえば、最終的にミシシッピー川へとつなかっていく水路網を写した空中写真において、そのなかのどの一部分を拡大しても写真全体と同じように見えることに、彼は気づいたのだ。
- 332P
我々は、大地震や大量絶滅に潜む大きな原因の探求と同様、歴史の大きな出来事に潜む偉大な人物を見つけたいという欲求に、いやおうなしに駆られてしまう。しかしこの砂山歴史学者は、歴史の『偉大な砂流理論』にきっぱりと反対し、おそらく人間世界の歴史学者にも、同じようにするべきだと忠告するだろう。この砂山歴史学者は、ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリッヒ・ヘーゲルに同意することだろう。ヘーゲルは次のように結論づけた。
偉人とは、その時代の意志を言葉に表わし、その意志が何かを時代に語りかけ、そしてそれを達成できる人物である。その人物の行うことは、その時代の核心であり本質である。偉人が時代を実現させるのだ。
この考え方によれば、出来事の重要性は個人の偉大さに由来するものではない。ある人物を重要で『偉大』にさせるのは、時代の意志という鬱積した力を解き放ち、その巨大な力を動かす能力なのである。