推薦図書紹介

■数学でつまずくのはなぜか 著者 小島寛之
ISBN978-4-06-287925-5
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部教授)
【紹介文】
実感とほぼ乖離の少ない小学校までの「算数」は、中学校から無味乾燥で感覚とほど遠いかにみえる「数学」に変わる。著者は数学の歴史にも詳しく、代数学や幾何学が、そもそも何のために作られたかにも精通する。中学や高校生が感じる数学への戸惑いは、数学史の巨人もまた経験したことを指摘しながら、数学と実感を結びつける解説を本著は行う。例えば「マイナス掛けるマイナスは、なぜプラスか」が体感として分かる。
  • 17P

    そこで困ったのが『負の掛け算の導入』だった。『規則だから覚えましょう』的な押しつけの教材ではなく、『なるほどそうか』と自然に掛け算の法則が飲み込めてしまうような、そういう教材を提供したかったからだ。(中略)
     しれは、こどもたちに先ほどのように『正反対の言葉』を列挙させた時のことだった。その中で、『賛成と反対』という言葉を挙げたこどもがいた。その子は、この例を挙げたあと、『反対の反対は賛成なのだ』と赤塚不二夫のマンガ『天才バカボン』のせりふを付け加えて笑った。(中略)
     『ある意見に反対する』というのを『マイナス』と捉えるなら、『反対の反対は賛成なのだ』というせりふは、まさに『マイナス掛けるマイナスはプラス』ということを意味している。気づいてみれば簡単なことなのだが、正負の数の掛け算を理解するためには、このように『方向算』というものを導入することが一番うまい手だったのだ。

  • 63P

    このようなつまずきが起きるのは、幾何の勉強が『図形の性質』と『論証』という全く異なる二つの側面をいっしょに扱っているからに他ならない。ところが、『幾何学を論証とペアにして扱う』ことは、決して、そうでなければいけないというものではないのだ。このような流儀は、ギリシャ数学の伝統から来たものであり、幾何学を扱うための一つの方法論にすぎないからだ。
     実際、ギリシャよりも古い文明をもつエジプトやバビロニアでも、ギリシャとほとんど同じだけの幾何学の知識を持っていたそうだ。しかし、エジプトやバビロニアの学者たちは、図形の法則を『ただそうである事実』と受け取り、『どうしてそうであるか』ということには興味がなかったのである。

  • 115P

    もちろん、関『数』という名だからといって『数』に関するものでなくても構わない。(中略) 例えば、関数cを『インプットされた生物の子供の名称をアウトプットする』という働きのものとするなら、
     c(ニワトリ)=ヒヨコ
    c(カエル)=オタマジャクシ
    c(トンボ)=ヤゴ
    等々となる。cは『親子』という関係性を表現する『規則』となっているのである。また、使うアルファベットも一文字でなくてもいい。cではなくchildとして、
     child(ニワトリ)=ヒヨコ
     と書いてもかまわない。むしろ、この方がよりわかりやすいだろう。この例を見ただけでも関数には、かなり広汎な利用法があることが感じとれるに違いない。