推薦図書紹介

■愛と心理療法 著者 M・スコット・ペック
ISBN978-4-422-11447-7
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部教授)
【紹介文】
原題は「The Road Less Traveled」。精神科医の著者は、自身の生き難さと向かい合うことを「旅行く人の少ない道」と表現し、心理的な治療と精神的な成長は、ほぼ同義だと説く。心理療法は独自に行うことも可能だが、精神科医との対話を通じた方が近道として利用でき、その一方で、原因を瞬時に解決する魔術的な方法でもないことを著者は指摘する。
  • 65P

    先に述べた例は、自らを患者と呼ぶ勇気のある人々が、心理治療の過程で何度も大きな形で経験することの、小型版である。集中的な心理治療の時期は、集中的に成長する時期であり、その間に患者は、人が一生のうちに経験する以上の変化を経験することがある。このような成長がほとばしり生じるには、それに見合うだけの『古い自分』が捨てられねばならない。

  • 94P

    本当の愛の経験も、自我境界と関連している。それがおのれの限界を広げるからである。おのれの限界とは自我の境界である。愛を通じて自らの限界を広げるのは、愛する人に向かいその成長を願って、いわば手をさし伸べることによる。そのためには、対象がまず自分にとって愛すべきものにならねばならない。言いかえれば、自己の境界をこえて自分の外にある対象に引きつけられ、のめりこみ、関わりあう必要がある。この過程を精神科医は『カセクシス』と呼んでおり、対象に『カセクト』する、という言い方をする。(中略)
     永年にわたって何かを愛し、カセクシスによっておのれの限界を広げてゆくと、徐々にではあるが、たえず自己が拡大し外の世界が内に取り入れられ、自我境界は薄れると同時に伸張し成長していく。それとともに自己と外界の区別が曖昧になっていく。そして外界と一体になる。こうして自我境界の一部が崩壊すると、『恋に落ちる』時と同じ種類の恍惚感を経験しはじめる。ただ、一人の恋人と一時的にしかも非現実的に一体化するかわりに、現実的に、より恒常的に外界と融合するところが異なる。

  • 166P

    相手の精神的成長を養うことは、結果的に自分自身の成長になるのだが、純粋の愛の最大の特徴は、自分と相手の区別がつねに保たれて失われないことである。純粋に愛する人は、相手が自分とは完全に分離したアイディンティティの持主であることを、つねにみている。そして、相手のユニークな個性をつねに尊重し助長さえしている。このような分離を認めたり尊重したりしそこない、それが多くの精神疾患や不必要な苦悩の原因になっていることが極めて多い。