推薦図書紹介

■サイレント・マイノリティ 著者 塩野七生
ISBN978-4-10-118107-3
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部教授)
【紹介文】
「自身の頭で考え、『世間の空気』に流されず、常に醒めた冷静な目で、自身の置かれた状況や自身が属する社会や国を見定める」には、どうしたら良いか。その具体例が歴史小説家の著者の視点で書かれたエッセイ。
  • 13P

    「ちなみに、”夢もなく、怖れもなく”とは、拙著『ルネサンスの女たち』(中央公論社)の第一部、イザベラ・デステの副題に使ったもので、彼女はそれを、生涯のモットーにしていた。(中略)”夢もなく、怖れもなく”といっても、夢と怖れとも完全に無関係な生き方を言っているのではない。もしそれをできる人がいるとすれば、まずもってその人は、感受性に完全に欠けている非人間であろう。だから、音楽の練習に使うメトロノームに譬えれば、左右に振幅を繰り返す針がだんだんと振幅の度を少なくしていき、最後にピタリと中央で止まるのに似ている。振幅は夢と怖れであり、中央で止まった時にはじめて、夢もなく怖れもなくの心境に達するのだ。」

  • 119P

    「真実が求められない場合は、真実であってもおかしくない嘘、で代用させるしかない。それどころか、歴史でしばしば、そのような『嘘』のほうが、真実に迫るに役立つことが多いものなのである。(中略)
    歴史そのままと、歴史ばなれと、簡単に二分して済む問題ではないのである。それをする前に、誰もが一度、鴎外の意味した『歴史』つまり史料というものについて、自分ならばどのように考え、自分ならばどのように対処しているかを、明らかにしてみてはどうだろう。『歴史』とは何かを明らかにしないでおいて、『そのまま』も『はなれ』もあったものではないと思うのだが。また、それが明らかになった後ならば、『歴史そのまま』も『歴史ばなれ』も、自ずからはっきりしてくるにちがいない。」

  • 198P

    「装いとは、自分の個性に合ったものであるべきである、という定義に、私は真向から反対する。それよりも、装いとは、自分が化したいと思う個性に合ったものであるべきだ、と思っている。自身の個性などそうそう簡単にわかるものではないし、わかったとしても、自分の思う個性と他人の評するそれが、ひどくちがっている場合だって多い、そして、アイディンティティー探しに無用な努力をするよりも、いろいろちがう自分を演じてみて、その選択と演じ方の総合から、自然に浮かびあがってくるのが、その人のアイディンティティーだと思うほうが好きなのだ。素顔の時よりも化粧した時の顔が、その女のほんとうの顔だ、とするのと似ているが、これは、絶対とか正義とか使命とか声高に叫ばれるととたんにアレルギーを起こす、私個人の性癖によるのかもしれない。」