推薦図書紹介

■野中広務 差別と権力 著者 魚住昭
ISBN978-4-06-212344-0
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部准教授)
【紹介文】
京都府の町議から国会議員、自民党幹事長まで上り詰めた野中広務は、町議時代から政敵を徹底的に追い詰める一方、社会的弱者を守り抜く政治姿勢をもつ。なぜ、野中が政界で権力を持つに至ったか、また日本のどのような国策の転換期にあって、野中は影響力を失うに至ったか。野中の政治家人生の盛衰を追うことで、日本の政治史の大枠を掴むことが出来る。
  • 12P

    野中ほどナゾと矛盾に満ちた政治家はいない。彼には親譲りの資産も学歴もない。そのうえ五十七歳という、会社員なら定年間近の年で代議士になりながら、驚くべきスピードで政界の頂点に駆け上がってきた。『影の総理』『政界の黒幕』と異名をとり、権謀術数のかぎりを尽くして政敵たちをうち倒してきた。(中略)
     しかし、その一方で野中はまったく別の側面をもっている。彼のもとには政治に見捨てられた社会的弱者たちが次々と訪れた。(中略) ハンセン病の西日本訴訟原告団理事局長だった堅山勲が言う。
     『野中さんには『悪代官』みたいなイメージがあるでしょう。あれば百八十度違うと私は思いますね。素晴らしい政治家です。細やかな気配りがあって人間として温かい。言葉の一つひとつに、傷ついた者をこれ以上、傷つけてはいけないという気持ちがにじみ出ています。今、私は野中さんのことを手放しで信頼できると言いますよ』

  • 145P

    『町内の部落の人らは『部落出身者がこうして選挙に出てはる』いうんで、大半は野中はんに票を入れる。それぐらい一体感は強いんです。野中はんもその人たちの前では解放同盟を批判したりはせん。けれど、部落の票だけでは当選できんから、部落の外ではあんな演説をやる。わしは両方の演説を聞いとるから違いがようわかる。野中はんのなかには、差別に憤る部落民としての野中はんと、政治家としての野中はんと二人おるんです』
     同級生の言葉は、野中の政治的特質を的確にとらえている。
     被差別部落の人々にとって野中はともに差別に苦しんできた『兄弟』であり、自分たちの声を行政に反映させる『窓口』でもある。だが、部落外の住民たちにとっては、野中は解放同盟に批判的で、しかもはっきりものが言える希有な存在だった。園部の有力者たちが彼の町長就任を認めざるをえなかったのも、彼以外に解放同盟の圧力に対する『防波堤』の役割ができる者がいなかったからだ

  • 357P

    独自の国家戦略を持たず、与えられた役割に忠実すぎる野中の弱点は、小渕政権の官房長官時代に露呈する。すでに触れたように野中は、ガイドライン関連法や盗聴法、国旗・国歌法、改正住民基本台帳法など国民の基本的人権を制限し、日本を右旋回させる法律を次々と成立させた。後に『なぜこんな法案を成立させたのか』と問われて野中はこう答えている。
     『僕が力をいれてやったのは、国旗・国歌法と男女共同参画社会基本法なんだ。この二つで頭がいっぱいだった。ガイドラインと住基ネットはもっと慎重にすべきだったと思っている。(中略) それと、ガイドラインなどはあれですよ、小沢一郎と連立を組んでいたから、小沢の(要求)を呑んだ、という面が大きい。自自連立でしたからね』