推薦図書紹介

■木のいのち木のこころ 著者 西岡常一
ISBN978-4-10-119031-0
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部准教授)
【紹介文】
著者の生家は、代々、法隆寺に仕え、当人は「最後の宮大工棟梁」と言われた。著者が宮大工として経験から得たものの見方に加え、飛鳥時代から継承される法隆寺大工の口伝は、本当の知恵とは何かを読者に気づかせてくれる。
  • 18P

    私は今年で八十五歳になりますが、これまで民家は一軒も造りませんでした。自分の家もよそさんに造ってもらいましたのや。民家は造ると、どうしてもいくらで何日までに上げねばならないと考えますし、儲けということを考えな、やっていけませんやろ。私はおじいさんが師匠でしたが、絶対に民家を造ってはならん、ときつくいわれていました。
     言葉が悪い言い方ですが、儲け仕事に走りましたら心が汚れるというようなことでした。そのために私らは田畑を持っておりました。仕事がないときは田畑をやって、自分と家族の食いぶちをつくれということだったんでっしゃろな。

  • 85P

    教わるほうは『もっとちゃんと教えんかい』、『これじゃ、できるわけないやろ』、『おれはまだ新入りで親方とは違うんじゃ』とかいろんなことが思い浮かびます。しかし、親方がそういうんやからやってみよう、この方法ではあかん、こないしたらどうやろ、やっぱりあかん、どないしたらいいんや。そうやってさまざまに悩みますやろし、そのなかで考えますな。これが教育というもんやないですかいな。自分で考えて習得していくんです。

  • 114P

    棟梁の大きな仕事は人に仕事をしてもらうことにあります。どんなに腕がよくて、木の癖を見抜くことができても、自分一人では建物は建たんのです。一人では柱一本持つこともできませんがな。少なくても二人の力がいりますし、それを削ったり切ったりするといったら、木馬という台をあてがう、もう一人の職人がいりますな。こうして塔や堂を建てるんですから大勢の職人を使わなくてはなりません。(中略)
     職人というのはそういう腕自慢のところがありますし、まったくなかったらやっていけませんけど、性根の曲がったのもおりますわ。それでも辞めさせたりはしませんな。また学校の先生のように、性根が曲がっているから直してやろうということもありませんな。その人はそれでちゃんとした職人ですし、性根というのは直せるもんやないんですわ。やっぱり包容して、その人なりの場所に入れて働いてもらうんですな。曲がったものは曲がったなりに、曲がったところに合う所にはめ込んでやらな、いかんですな。人とうまくやっていけなくても使い道はあるんです。だからといって甘やかしているんや、おまへんで。厳しいところは厳しくせんとな。