推薦図書紹介

■日々是好日-「お茶」が教えてくれた15のしあわせ- 著者 森下典子
ISBN978-4-10-136351-6
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部准教授)
【紹介文】
学生時代に「お茶」を習い始め、二十五年経った現在、著者が就職や失恋、父親との死別など経験しながら、いつもそばにあった「お茶」が、ものの感じ方、見方、五感を豊かに鋭くしてくれていたことに気づく。その経験をまとめたエッセイ。
  • 28P

    パラパラパラパラ・・・・・・
     豆が当たるような音で、大粒の雨がヤツデの葉を打っている。
     ポツポツポツポツ・・・・・・
    テントをつつくような音をさせて、今を盛りの紫陽花の葉や、丸く大きくなった山茱萸の葉っぱたちが、元気に雨をはね返している。熱帯雨林を感じさせる雨だった。
    『梅雨の雨だわね』
    先生が、誰にいうともなくつぶやいた。
    そのとき、気づいた。
    (そういえば、秋雨の音はちがう・・・・・・)
     十一月の雨は、しおしおと淋しげに土にしみ込んでいく。同じ雨なのに、なぜだろう?
     (あ!葉っぱが枯れてしまったからなんだ・・・・・・。六月の雨音は、若い葉が雨をはね返す音なんだ!雨の音って、葉っぱの若さの音なんだ!)

  • 144P

    四、五回ゆっくりかき回したところで、いきなり濃茶特有の香ばしさに鼻の付け根を打たれた。
     (あ、今、お茶の葉が目覚めた!)
     その香りは爆発的で、茶碗の中で、化学反応が起こったかのようだった。
     毎年五月に摘まれ、加工された茶葉は、うま味が十分に熟成するように『茶壺』に詰められ、封印される。そして約半年過ぎた十一月、茶壺の封が切られ、石臼でゴリゴリと挽かれ、このウグイス色の粉になる。
     この香りはきっと、壺のなかで半年寝ていた茶葉が、光と水分に出会い、今、目覚めたというサインなのだ、と私は思った。

  • 200P

    『一期一会』とは、『一生に一度きり』という意味だ。
     『たとえ何度も、同じ亭主と客が集まって茶事を開いたとしても、今日と同じようには二度とならないのよ。だから、一生に一度限りだと思って、その気持ちでやるんですよ』
     私はいま一つピンとこなかった。『同じ顔ぶれが集まっても、決して同じ会にはならない』というのは、わかる気がする・・・・・・。でも食事とお茶の会に、なぜ『一生に一度きり』とまで、思い詰めなければいけないのだろう?(中略)
     千利休がお茶を体系化した安土桃山時代は、織田信長や豊臣秀吉の天下だった。
     『昨日、元気だった友達が、今日殺されたなんてことがたぶんいっぱいあって、この人に会うのも今日が最後になるかもしれない、っていう切迫感がいつもあったんじゃない?』