推薦図書紹介

■危機の構造 日本社会崩壊のモデル 著者 小室直樹
ISBN978-4-12-201786-3
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部教授)
【紹介文】
1976年に著された社会科学的な書籍だが、本著の理論モデルを利用すれば、戦後から現在に至るまで、日本に起こった経済破綻やテロリズムが、なぜ起こったのかを分析できるようになる。
  • 29P

    現在(いま)は現在(いま)という刹那的な認識に立つ限り、高度経済成長以前の時代、ましてや戦前の事情などはいまとはなんの脈略もない別世界である。時間的に過ぎ去った時代から教訓を引き出して科学的に分析しながら、それを今日に生かすという基本的な態度が要請されるにもかからわず、これがない。-歴史は常に現代史であるというクローチェの指摘を思い出してみるといい。現在(いま)の危機とはまさにこのような初歩的な認識不足の態度の中にこそ胚胎する。高度経済成長という『最も空想的な人間の夢想をも絶する』社会変動を体験したにもかかわらず、われわれ日本人の行動様式は、構造的にも戦前のそれと同型(isomorphic)である。現在にあっても過去にあっても、日本人は依然として社会状況を科学的に分析し、これを有効に制御するという能力に欠けている。これはまことに戦慄すべき事実である。

  • 55P

    日本における官僚の優越性が、日本独自の技術的思考様式とタコツボ現象に裏打ちされるとき、それは、ときに致命的様相を帯びる。(中略)
    ①自分たちこそ国民から選ばれたエリートであり、②この努力は、所与の特定した技術の発揮においてなされる。③したがって、この所与・特定技術の発揮においてのみ、全身全霊に打ち込めば、その他の事情は自動的にうまくゆき、日本は安泰となる。

  • 59P

    このような、官僚的思考、行動様式が、日本社会のタコツボ的状況(societal cluster)で働くとき、無責任体制が支配し、破局に向かってまっしぐらに邁進するメカニズムを生む。日本社会の組織的特色は、組織とくに機能集団が運命共同体的性格を帯びることである。官庁、学校、企業などの機能集団は、生活共同体であり運命共同体である。各成員はあたかも『新しく生まれたかのごとく』この共同体に加入し、ひとたび加入した以上、定年までその中で生活し、他の共同体に移動することは困難である。