推薦図書紹介
人は心が傷つくと、自分は弱くて駄目な人間と感じ易いが、著者はその傷そのものが、自分にとっていちばん大切なことは何かに気づかせる機会になると指摘する。心に傷を負っても自信を失ったりせず、「この傷が私なんだ、この傷の立ち直りが私なんだ」と、誇りを持つべきと著者はいう。精神科医の著者による心の傷を通じた自己成長のエッセイ。
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ただ、私にとってはその人の心の傷は、顔や学歴なんかより何倍も個性的で、そして場合によっては、生き生きと自己主張しているように見えることもあるのだ。だから、『ああ、こういう傷を持つあの人ね』と思い出すのは、少しもマイナスなこととは思えない。
傷は、自分にとって何よりも個性的なしるしであり、『私は繊細でやさしい』という証でもあるのだ。 - 92P
家族によってつけられた傷は、しばしば友人や恋人に接したときにも、その人をスクリーンとしてよみがえることがあるからだ。
しかし、あなたを傷つけた家族と、目の前の人はまったく違う、赤の他人だ。
恋人がちょっと大きな声を出しても、『あ、お父さんみたい』と思い出してしまうかもしれないが、そのときには自分に『違う、違う、この人がスクリーンになっているだけ』と言い聞かせてみてはどうだろう。 - 123P
そして、忘れないでほしいのが、何かで深く傷ついたとしても、自分のすべてが失われたり、過去までが帳消しになったりするわけではない、ということだ。
診察室にいると、よくこんな言葉を耳にする。
『職場でめちゃくちゃに傷つけられました。もう生きている自信もなくなった。人生に意味なんてありません』
その人の話を良く聞くと、会社でひどいいじめにあって自分を否定されたのはたしかだけれど、その人じたいのよさや持ち味そのものがすべて奪われたわけではない。趣味もあるし、学生時代からの友人ともどきどき連絡を取っている。
『あなた自身の価値や意味、それから楽しかった過去などは、ひとつも消えてなくなってないですよ。会社で運悪くひどい目にあって傷ついた、それだけのことですよ。これからのあなたの未来にも、今回のことは何も関係や影響を与えないはずです。あなたの人生からちょっと切り離して考えましょうよ』
そうやって心の傷を狭く、小さくとらえるようにすすめると、多くの人ははっとしたような顔をして、『そうですよね。たかが会社の100平方メートルくらいの中で起きたことですよね』とうなずく。