推薦図書紹介

■なぜこんなに生きにくいのか 著者 南直哉
ISBN978-4-7700-4105-0
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部准教授)
【紹介文】
禅宗の僧侶である著者は、「唯一絶対の真理とか、絶対の教えなどどうでもいい」と言う。本著は、「とにかく、生きにくいとか、生きがたいと思う」人に対して、それでも生きるにはどうしたら良いかという問題に応えた著書。著者こそが、自分が生きがたい感情を説明する言葉を求めて仏門に入った人間であった。
  • 18P

    そもそも『生きにくい』『生きがたい』という感情と『生きたくない』という感情は別です。『生きたくない』とは思わない人にも、『生きがたい』ということは起こりうるでしょう。
     それに、生きがたい人が直ちに不幸かというと、必ずしもそうではありません。先々に何かをしたいと思える人、あるいは誰かのために生きようという人は、生きがたくても生きにくくても、『いまは大変かもしれないが・・・』と思いながら、なんとかやっていくものです。(中略)
     一方、『生きたくない』というのは、自分の価値や、自分が存在する意味そのものが定かに見えなくなってしまっている状態でしょう。
     いまの時代は、この『生きたくない』というのと、『生きがたい』というのが、同じことのようになっている気がします。つまり、何か具体的な困難があるから生きがたいというのではなく、むしろ生きたくないという感情が表にあらわれて、なお生きなければならない困難さのようなものがむき出しになっていることが、生きがたさにつながっている気がするのです。

  • 100P

    世の中には、さまざまな思想や宗教があります。『自己啓発』と称するセミナーの類もいろいろあるようです。それらが、ある人の生き方に利益や安心、充実感をもたらすことは確かにあるでしょう。結果として、その人の人生が豊かになったり、生きやすくなるなら、否定する理由はありません。
     そのときに大事なのは、その人を巡る『縁』が豊かになるかどうかです。逆に人間関係が貧しくなり、違う価値観念をもつ人との関係を遮断していくのだとすれば、何かがおかしいと気づかないといけないでしょう。それは、自分が選択したはずの価値に逆に呑まれてしまっているのです。『絶対的な何か』を求めたり、自分の中に『絶対的な根拠』があると考えるのは、やめたほうがいと思います。

  • 110P

    この世が生きがたいのは、根本に、『自分であること』がつらい、という現実があるからでしょう。自分が自分であることを支えていくのは大変です。なぜなら『自己』という主体を作っていかないといけないからです。
     自己であることを作る基本的な文法は、因果関係です。未来の目標を定めて、過去を反省して、いま何をするかを決定する-この行為様式を担うことを『主体性』と呼ぶのでしょうが、これは因果関係を用いて考えないかぎり、成立しません。またそれを繰り返す中で『時間』という構造が生まれてくるのだと思いますが、これは非常に面倒でつらいし、くたびれます。近代とは、とりわけそういう『主体的な自己』として生きることを、ほとんど強制されているような時代なのです。