推薦図書紹介

■聖書を読む 著者 佐藤優・中村うさぎ
ISBN978-4-16-790559-0
紹介者:工藤秀雄(西南学院大学商学部教授)
【紹介文】
著者の一人、佐藤氏は同志社大学大学院神学研究科を修了。「創世記」「使徒言行録」「ヨハネの黙示録」を通じ、神学的な思考法を解説する。小説家の中村うさぎ氏は、買い物依存症などあらゆる「世俗」を過去に体験した。平易な言葉で率直に聖書の言葉に疑問を投げる中村氏の問いは、神学的に最も深い問いを突いていることを、佐藤氏が明かす。
  • 117P

    中村 だから、奴隷の宗教としてのユダヤ教を読み替えたのがイエス・キリストで、そこに愛という概念を入れ、神の子が人間のために犠牲を払うという物語をつくったわけね。あのイエス・キリストがいなかったら、ここまでキリスト教が世界を席巻することはなかったと思うんですよ。
     佐藤 ユダヤ教だけだったら、すごく狭い範囲の宗教で終わっていたでしょうね。
     中村 私たちは新訳聖書を知った上でこの『創世記』を読んでるよね。ということは、この先、神が自分の息子であるイエスを犠牲として差し出すことも知りながら読むわけですよ。そうすると、神の過酷な仕打ちなんかも、ああ、これも愛の鞭なんだなと思って読めるんだけど、それを知らなかったら単なる過酷な物語で終わっちゃう。そう考えると、今も旧約を頑なに信じているユダヤ人って、不思議な人たちですよね。

  • 269P

    佐藤 そうです。それから明らかにイエスには、自分がキリスト教なんて新しい宗教を開いたつもりは微塵もなかった。『本来の神様に返る』とは言ったんだけれども、ユダヤ教から大きく離れるものではない。しかし、パウロは『イエスさんがおっしゃるには』と、イエスの名をやたらと使って新しい宗教をつくるわけですよね。その新興宗教を使って世界的な規模に拡張するということなんで、経営者としての能力も優れている。相当なオーガナイザーであり、口八丁手八丁であり、相当なずるさもある。しかし、その中には何かに取り憑かれた純粋さもあると。そして、本当に重要なこと以外、なんでも妥協してしまう柔軟さも備えており、キリスト教が成功した秘訣というのは、このパウロという男にあると思うんですよね。

  • 294P

    佐藤 なんか、パウロに関してはインチキくさいことが多いんだけれど、私はここはキリスト教のポイントなんじゃないかと思っている箇所が20章17節以降です。(中略) ≪受けるよりは与える方が幸いである≫という一節、ここをどう解釈するかというのが、神学の中では重要なんです。私自身がずうっと研究してきたヨゼフ・ルクル・フロマートカ(一八八九-一九六九)は、恐らく聖書の中でこの箇所を一番重視している人なんです。
     中村 へぇ~、そうなの。佐藤さんが『私のマルクス』で書いていたチェコの思想家ね。
     佐藤 人間がどうして与えることができるのかというと、実は受けているものは全部、自分にあるからだ。その受けているものは自分の力じゃなくて、神様から来たものなんだ。だから能力や適性、金や財産など、人間の持っているものを、自分のものと思ってはいけない。自分の能力というのは外から来ているもので、それを惜しむことなく与えるのだということです。つまり与えるのは決断ではなく、習慣、クセのようなものだっていう発想なんですよ。